© Copyright 2015, 国立人文研究所 All Rights Reserved. 

 

KUNILABO講座

「文学理論入門」(講師:中山徹)

​藤田直哉氏賛同文

 批評理論の素晴らしいところは、世界がわからなくなるところである。
 普通、書物に手を伸ばす人というのは、何かをわかろうとしていることが多い。しかし、批評理論は、学べば学ぶほど、わからなくなる。それが素晴らしい。
 なぜそんなことが素晴らしいのかと言えば、「わからなくなる」ということは、読みが精緻になり、複雑になり、複数化し、それだけ対象そのものに肉薄するから生じていることだからである。
「読み」は、別にテクストだけに限定されない。現実やら他者やら世界を「読む」ときの方法にも援用できる。
「現実」や「他者」は、本当は理解できないほど複雑である。わけがわからない。それをステレオタイプな先入観で覆い隠しあうことで生活世界を成り立たせる了解をして生きているのが私たちである。
しかし、それでは、本当に親密な間柄であっても相互に理解することはできないし、ステレオタイプではない他者や現実の存在そのものが意識に入らなくなる。
それではマズい。
しっぺ返しを食らうかもしれないし、倫理的な態度が取れなくなってしまうかもしれない。
 世界がわからなくなるということは、世界の見え方が豊かになるということでもある。もちろん、面倒くさくもなる。文学の良いところは、いくらでもその複雑さやわからなさや迷宮に迷って遊んでいてもいいところである。無責任さやいかがわしさが許されてもいる。
世界が「見えているのと違うこと」、そして「迷う快楽」、これを覚えてしまえば、あなたの一生は、もう飽きない。経験や想像により作られた世界の姿が「違うものに成り続ける」からである。
 それは不安かもしれない。怖いかもしれない。底がない感じを受けるかもしれない。しかし、それを愉悦や快楽として感じていいのが、文学だ。そう感じるためのレッスンと言ってもよい。
 文学や批評理論が、「役に立たない」と言う人がいる。そんなことはない。テクストの読み方が変われば、世界の見方も、自己理解も変わる。「役に立つ」「役に立たない」という尺度そのものが根本的に変わるような、眩暈のする愉悦の体験をすることができる。
 価値転倒、世界観の根本的な転倒が、不安や恐怖ではなく、悦楽や愉悦でもあることを、どうか知ってほしい。批評の魅力の確信は、そこにある。中毒性が非常に高く、あなたの人生を変える、劇薬だ。

藤田直哉
SF・文芸評論家。博士(学術)。二松学舎大学、和光大学非常勤講師。

文学理論入門 ★★(受講料8,000円/1期)

第4月曜日 19:00〜20:30(4/24、5/22、6/26、7/24)/会場:リトマス

本講義は、言葉にかかわる四つの問い――言語メッセージは何によって芸術作品となるのか、テクストはいかにして不可解なもの、読みえないものになるのか、物語は何を欲しているのか、フィクションはどのように現実に関与するのか――を出発点にして、文学がもつと考えられる四つの機能――詩的機能、脱構築的機能、政治的無意識という機能、社会的言説としての機能――に焦点をあてます。世にいう「文学」を、自明なものして前提とするのではなく、こうした問いが浮上する場としてとらえること、そして、いわゆる「理論」をこうした問いと機能をめぐる反省の試みとしてとらえること。講義では、このような視点にたって、いくつかの代表的な文学理論を解説し、吟味できればと考えています。

【授業予定】

全四回の講義の仮題と各回でふれる予定の主な理論(家)は、以下の通りです。

第1回 「詩学と美学」——ロマン・ヤコブソンをはじめとするロシア・フォルマリズムとクレアンス・ブルックスを代表とする〈ニュー・クリティシズム〉。

第2回 「修辞的に読む」——構造主義と、ポール・ド・マンを中心としたいわゆる「脱構築」批評。

第3回 「テクストの夢作業」——フロイトの夢解釈と、それをモデルにしたフレドリック・ジェイムソンのマルクス主義的解釈学。

第4回 「文学と社会」——新歴史主義、クィア理論、エドワード・サイード、文学の社会史など。

講師

中山徹(なかやま とおる)

一橋大学大学院言語社会研究科教授。専門は英文学。著書に『ジョイスの反美学――モダニズム批判としての『ユリシーズ』』(彩流社、2014年)、『ジョイスの迷宮――『若き日の芸術家の肖像』に嵌る方法』(共著、言叢社、2016年)、『文学研究のマニフェスト――ポスト理論・歴史主義の英米文学批評入門』(共著、研究社、2012年)など。訳書にスラヴォイ・ジジェク『ジジェク、革命を語る――不可能なことを求めよ』(青土社、2014年)、ジジェク『暴力――6つの斜めからの省察』(青土社、2010年)など。現在、ポール・ド・マン『ロマン主義と現代批評』の翻訳を準備中。